コグホイールのポストにベアリングが入らない



1年に1回くらいでしょうか、お客様から

BBコグホイールを買ったものの、コグポスト(シャフト)にベアリングが入らんがな!

と、お怒りの報告をいただきます。

これに対して、

「アブの個体差で〜」

「ポストを削ったら入るので、加工お願いします。ダメでしたら返金します。」

等、お決まりの対応をしていたのですが、これといった理由を説明できないのが嫌で、

その筋のスペシャリストに質問してみました。

その結果、

ハッキリと原因が分かりました。

今回、特集を組んで証明致します。

議題
コグのポストにベアリングが入らない件


この症状を詳細に説明したブログがあります。



ハリィさんの水面どうでしょう

です。

以前、お付き合いあったのですが、ブログを放置され、なかなかこの症状を説明しているブログも珍しいため、紹介してもいいか聞いてみたものの、返信ないので、勝手に拝借します。ゴメンなさい^^;

リールいじりB 5000Cクラシックレプリカ破壊と修理><

ちょっと工程が前後するのですが,実は5600WSにベアリング入り5152コグを取り付ける前に
ナマズ用のメインウェポンであり,もっとも大事にしている5000Cクラシックレプリカへの装着を手がけていました。

これも先に結論を書いちゃいます。ハリィと同じ悲劇を生まないために・・・

5000Cクラシックレプリカはベアリング入り5152コグホイールのポン付け不可!
(シャフトを細く削ればおそらく装着できます)

では見ていきましょう。
5000Cクラシックレプリカ。見た目はオールドですが中身はウルトラキャストタイプです。


パーミングカップを開けると,おなじみの構造です。


ノーマルコグ(左)とカスタムコグ(右)の裏側。取り付けにむけてワクワクしてたんですけどねえ。


で,コグのシャフトにカスタムコグを差し込もうとしたら・・あれ?キツイな・・?うまく入らない。

まあ,押し込めばいいか,とグっと押しこんだらシャフトの中ほどでストップ。もうビクともしない。

何!?とコグホイールをつかんで引き抜いたら,ベアリングだけがシャフトに噛んだまま残留。

・・・えぇええええ!!!???

どうしよう・・・>< あまりの焦りで写真撮るの忘れてます。画像はありません。

個体差?仕様??コグホイールのシャフトが太いようです。ベアリングが抜けません!!!

もう,ベアリングはあきらめました。とにかく抜かねば,とペンチでつかんで引っ張るも抜けない抜けない。
はっきり言って涙目ものですよ。ひたすら力づくでこじって抜きました。やった!!!

と思ったのも束の間。今度は本当に泣きそうになりました。

シャフトの取り付けががガタガタになり,隙間まで開いてしまいました。
うわぁぁああああああん!!!!!


シャフトはたぶん,パーミングカップの外側でかしめて固定してあるのでしょう。そのかしめ部分が変形して
しまったのではないかと;;;;;;;

かしめ部の裏側はアブの紋章でカバーされています。こいつをきれいに外すのはまた大仕事になりそう・・・


どうしよう・・直せないかも・・一番のお気に入りなのに・・・と動揺しまくりでしたが,
こんなときこそ落ち着いて。あわてて作業するとたいがい悲劇を拡大するに違いないのです。

接着するしかありませんが,シャフトが斜めに固定されたりしたら目も当てられません。
・・・と思ったのですが,シャフトの根本に台座があることに気が付きました。この台座はカップの取り付け部に
隙間なく密着していたはずです。

つまり,台座がカップに密着するように固定すれば,本来の角度で接着できるはずです。


じゃあ何で接着するか。ふくすけさんの記事を思い出し,ロックタイト!と思ったのですが,とりあえず手元に無いし・・・部位的にエポキシの強度的でも耐えられるんじゃない?といつもの練り練りw
もうひとつは,温めればさらさら粘度で奥に流しこめそう,というもくろみもあったり。


分量で失敗しないようにかなり大量の2液を練り練りして,基部の上に爪楊枝で盛ります。



次に,ドライヤーでガーっと温めて,とろーりと流れ始めたところで,シャフトをつまんでガタガタさせて
基部の裏にエポキシを回した後,シャフトを押し引きしつつ温めて,かしめ部裏側にもエポキシを流します。
・・・たぶん回ったと思う。

で,余分なエポキシをふき取り,シャフトをカップ側に押し付け,台座を密着させました。
あふれてきたエポキシの様子から,しっかりと裏側に接着剤が回ったものと思われます。


この状態で静かに水平にし,エポキシの完全硬化を待って,ノーマルコグを取り付けて・・・

無事!復旧!シャフトもがっちり固まってて問題なしです!!

やったーーー!!!!


・・・って,全く改造できたわけでもなく,単に自分で壊して修理しただけじゃん><

反省としては,力で押しこんじゃイカンということと,5152カスタムコグが万能じゃないということw
(展開図・・・物置にしまってあるから面倒なので未確認です。もしかしてこれも5152じゃないのか・・?)

もし,これからクラシックレプリカに取り付けようとする方がいらしたら,コグがスルっと入るかどうか確認した
上で,入らないときはシャフトの研磨も検討されたほうがよろしいかと思います。
ハリィは自分で壊したショックが残ってるので,当面クラシックレプリカのコグはいじらないつもりです><


以上、ハリィさんの貴重な体験談です。

で、本題w

僕の販売している実績でいうと、コグポストにベアリングが入らない個体は、結構珍しく、1年に1台くらいですので、多分1000台に1台程度。比較的オールドが多いと思います。もしくは、復刻版。いわゆる、くびれポストではなくて、筒状のストレートポストが多いように思います。

で、この理由の説明には、アブの部品製造の歴史が関係しています。

コグポストの歴史
1950年代のアブのコグポストはメッキがされておらず、当時使われていたギアは樹脂製でなく、真鍮製のものでした。

そして、70年後半になって、コグポストにメッキが施されることになりました。

理由は回転をよくするためだそうです。

このメッキの存在で、図面が変わります。

コグポストの設計図は1978年に変更されており、理由はメッキが厚い薄いで、コグホイールが入らなくなることが懸念されたからです。メッキの浸漬時間が長くなると、メッキが厚くなってポストの径が太くなります。

加えて、技術向上により、コグホイールも真鍮製から樹脂製に切り替わります。

この際、ギアは、樹脂成型の一つである、「射出成形」で作られるのですが、射出成形の場合、金型による大量生産を行います。

射出成形は、熱したプラスチックコンパウンドを金型に投入した後、冷やして固めるので、冷却ライン等のキャビティー(穴)がたくさんあり、それぞれの穴に誤差が発生します。

樹脂のマテリアル、機械の設定温度、冷ます際の周りの環境温度や冷却時間により、収縮幅が変わります。最悪なのは、思ったよりも縮んで、コグポストに入らなかった場合です。ゴミですから。

なので、コグホイールの径の公差は設計段階でかなり大き目にしておかないと、不適合品が多くなってしまいます。

ですので、樹脂製コグホイールは、センターホールの径が、4mmよりも比較的大き目に設計されており、コグポストは、メッキ浸漬時間のバラツキにより、メッキの厚いものと薄いものが存在します。

この理由により、

アブの組み立て工場で、径の大きめのコグホイールを、コグポストのメッキの厚いリール個体にはめ込んで、すんなり入って、検品。回転OKで出荷。

それをユーザーが購入。

いざ、ベアリングタイプのコグホイールに変更しようとすると、ベアリング製造メーカー側は、アブシャフトのメッキの厚い薄いを考慮して公差を考えているわけではありませんので、コグポストのメッキが厚くて、ベアリングが入らない。
*アブが使っているベアリングと他メーカーのベアリングなんかが、同一の公差を使っているとは限りませんので、アブのBBは入っても他社製ベアリングが入らないということもあります。

もともとついていた樹脂製のコグは入るけどもなぜ???

理由は、お客様のリールのコグポストのメッキが厚いからです!

これがベアリングコグホイールが入らない理由です。

改善策はただ一つ。

ご想像の通り、

サンドペーパーでコグポストのメッキを落とすだけです。

そういう個体に当たった時は、この記事を思い出してください^^

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